たまむすび 第14回「道具が渡っていくこと」


ジャグリング公演「秘密基地 vol.10」で上演された『otomodama』という作品に、道具製作で参加させていただきました。ジャグリングの道具を舞台上で実演販売する、という内容の作品です。それに合わせて、演出家の福井さんとともに、現実にも販売する本物の「商品」をつくりました。

完成したotomodamaは、表面にスエードを使用した、ミニサイズのビーンバッグ(お手玉) です。福井さんが作品に向けてイメージされていた「人とものとの対等な関係」や、僕が考えていた「ジャグリングの道具はジャグリングされていない時間の方が長い」ということをかけ合わせて、人の生活になじむ、お供のような、お友達のような、そんなコンセプトのボールが完成しました。

そして公演本番。僕は何度か客席から観させていただきました。作品上とはいえ、自分がつくった道具を、実演販売という形で人に紹介してもらうというのは、なんとも不思議な体験でした。

つくった道具が自分の手を離れて、その意味を保ちながら、実演販売員(演者)に。それが公演の観客へ伝わり、そして、インターネットからを含む購入者へと。これまでにないプロセスを体感して、道具というのは、ものを通じたジャグリングそのものの交換なのではないかと、はっとしました。福井さんの作品イメージと、僕自身の経験からつくられた、ある意味パーソナルな道具が、そのまま人の手に、その意味ごと渡り歩いていく不思議さ。

道具をつくり、それが人の手に渡ること。それは、僕のジャグリングと、購入者のジャグリングの交換、あるいはコミュニケーションなのかもしれません。一度自分の手を離れ、実演販売という形で紹介してもらうことで、そのことが意識できました。道具と、それを受けとってくれる人のジャグリングとの交流を、ゆるく期待し、楽しんでいきたいな、と思ったのでした。

 


 

この原稿は書くジャグリングの雑誌:PONTEが発行するメルマガ『週刊PONTE』vol.54(2019/11/25発行号)に掲載されたものです。

 

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