ジャグリングのエッセイ #4 回転おじさん

「ジャグリングのエッセイ」は、旅とジャグリングの雑誌:PONTEの編集長でもあるスタッフの青木くんが、道具と人をテーマに綴る連載です。


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 ジャグリングのコンベンションに行くと、「独特のモノ」に出会うことがある。

 たとえば、「回転おじさんの回転板」である。

 「回転おじさん」は、白髪をふんわりとこめかみの辺りに生やし、クラシックなメガネをかけた、フランスのおじさんだ。

 大概、地味な色のTシャツと短パン、長い靴下にスニーカーで現れる。

 「回転おじさん」は何をしているのかというと、ただひたすら回転をしている。二枚の板のあいだに、くるくると回るベアリングが入った器具。これに乗って、水平方向にその場でぐるぐると回転し続けているのだ。

 おそらく彼自身が作ったのだろう。

 「回転おじさん」はコンベンションにこの器具を持ってきては、周りの人たちに乗りかたを教えている。

 二枚のうち上の板には傾斜がついていて、少し体重を傾けると、そちらの方にぐるん、と回転する。うまくバランスをとると、自重をコントロールするだけでぐるぐると回り続けることができるのである。乗りかたにも様々なバリエーションがあって、ただ立って乗るだけではなく、座るスタイルや、肩で倒立をして乗るスタイルもある。二人で抱き合うようにして乗る2 in 1スタイルもある。

 他にも回転おじさんはヨガの一種「ナウリ」を教えてくれたり、不思議な体操を教えてくれたりする。回転おじさんは、もの静かだが、やっていることは、誰よりも目立っている。

 そんなおじさんを、僕は「ただのヘンな人」なんだと思っていた。昨年夏のフランスのコンベンションでも、夜中にバーになるテントの中で、ジャグラーたちが談笑したり、音楽に合わせて踊っている中、回転おじさんは真剣な表情で、えんえんと水平に回転していた。

 しかしある朝、朝食の会場に行くと、回転おじさんはなんと、バケツを持って、雑巾でテーブルを拭いていた。

 もちろん、回転ばかりしているおじさんがテーブルを拭いていたって全く構わないわけだが、僕はなぜか虚を突かれてしまった。

 「みんなのことを考えている、優しいおじさんだったんだ」と、勝手に感動してしまった。

 彼は今、水平に回転しているのではなく、真剣な眼差しでテーブルを拭いているのだ。

 

 そんな回転おじさんだが、僕は彼がジャグリングをしているところは見たことがない。そもそも、ジャグリングができるのかどうかも知らない。あんまりジャグリングに関心があるようにも見えない。だが、回転おじさんはそんなことはおかまいなしに、ただただジャグリングコンベンションに来ては、得意の回転板で回転し続けている。そして、彼は結構人気者だ。

 なぜなら、ただの木の板に乗って回転するというのは、ジャグリングなんか関係なく、誰にとっても面白いからである。ジャグリングコンベンションであろうがなんだろうが。