ジャグリングのエッセイ #3 温泉のお礼にボールをあげた話

「ジャグリングのエッセイ」では、書くジャグリングの雑誌:PONTEの編集長でもあるスタッフの青木くんが、道具と人をテーマに綴っていきます。今回は2019年の4月末から5月はじめにかけて開かれた、中国の大理(ダーリー)フロウフェスティバルで出会った人のことです。

 

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先日、中国で開かれた、フロウアーツフェスティバルに参加してきた。

フロウアーツというのは、ポイとか、スタッフとか、くるくる回したりする道具全般、そして、コンタクトジャグリングや、太極拳なんかも含まれる、「流れるような動き」をベースにしたアート全般のことである(と、思っている。)だが実際には純粋なジャグラーもたくさんいるし、ジャグリングフェスティバルと言っても差し支えがない。

参加者はバラエティ豊かで、フロウアーツで食べている人もいたし、趣味ジャグラーもいたし、音楽しかやらない、という人もいた。

シュー、という中国人の20代の女性も、音楽をやる人であった。
シューの生まれは雲南省。高校を卒業してから上海で暮らしている。バイオリンがメインの楽器。

今度の9月に、フィンランドの音楽院に入るための試験を受けると言っていた。
いろいろな面で「外」に気持ちの向いた、明るい人だった。かつてイギリスに留学していたこともあって英語も堪能だ。

今回シューは、フェスティバルが雲南省で開かれたので、実家に戻ってくるついでに参加したのだそうだ。
フェスティバルのあとの予定がなかった僕は、あとで昆明の方を案内してくれないか、と聞いてみた。シューは、快く引き受けてくれた。

そこでフェスティバルが終わった後は、昆明から少し電車に乗り、シューの故郷である玉溪(ユーシー)にお邪魔することになった。ユーシーは、発展した街ではあるが、落ち着いた雰囲気を持った、どちらかといえば退屈な印象の町だった。しかしこちらは、一週間のフェスティバル滞在を終えた疲れきった身だ。何もせずにゆっくりするのには申し分のないところだった。
特に予定もなかったから、家に着くなり支度をして、ブラブラと繁華街を歩く。かつてシューさんが通った学校の前や、その近くの小さなお店が立ち並ぶ商店街を見たりする。中国でも流行っている、タピオカミルクティを飲む。そして、その日の締めくくりに、温泉に行くことになった。

車で30分ぐらいの距離のところにあったのが、汇龙(フェイロン)温泉である。これがとんでもなく大きな温泉で、様々に趣向を凝らした湯船が20も30もある。入るときには基本的に水着を着るのだが、僕と友人は特にそんなものを持っていなかったので、パンツ一丁で入ることにした。

温泉に入る前に、広い休憩所のようなところでシューと落ち合う。するとシューは「お茶を飲もう」と言って、中国茶を入れてくれた。テーブルの上に立派な茶器が用意してあり、それを自由に使うことができたのである。僕たちは早く温泉に入りたい気分だったのだが、一緒にパンツ一丁でお茶をズルズルすすることとなった。

でも、中国のお茶の文化っていいんですよね。この時は、小さな茶碗蒸しのお椀ほどの容器でまず茶葉にお湯を入れ、そこからガラスの容器にお茶を移し、さらにそれをお猪口ぐらいの器に入れ、一口で飲み干しては、また次を入れて飲む、ということをした。

繰り返すうちにだんだん心が落ち着いてきて、充実した気分になる。パンツ一丁で何してるんだろうな、とおもわないでもないけど、まぁそういう訳の分からなさが海外旅行の醍醐味だったりします。肝心の温泉も、入っている最中におばちゃんがお茶を持ってきてくれたり、温度をいい具合に調整してくれるので、気持ちがよかった。

温泉から帰ると、シューのお母さんがたっぷりとご飯を用意してくれていた。手作りの肉まん、漬物、肉料理、ソーセージの入った炊き込みご飯など。まるで食べきれない量が食卓に上がっているのだが、一皿平らげると、またそのお代わりがどさっと載せられるので、適当なところできちんと言うなり、食べるのをやめないと、未来永劫ご飯を食べ続けることになってしまう。
でも、本当に美味しかったな。中華はいいな。

さて、翌日は僕らが日本へ帰る日だったので、何かお礼ができないか、と思い、少し考えたのち、ジャグリングボールをあげることにした。
ちょうどフェスティバルでジャグラーたちをみて、シューはジャグリングをきちんと覚えたそうにしていたので、それでは、と思って、友人が作ったボールケースと一緒に、3つのPMボールをセットであげた。

シューは「初めてのジャグリングボールだ」と言って、嬉しそうにボールを投げていた。
僕らとしても、次に繋がる形でお礼ができたのは嬉しいことだった。
お互いのことを忘れずにいられるお礼、繋がり、っていうのは、やっぱりいいもんだよな。

 

「せっかくなら庭で撮ろうよ」と言ってボールを持って外に出てくれたシュー